このタイトルでピンと来た方は、余程の映画マニアか黒澤ファンですね。
久し振りに「七人の侍」を観ました。黒澤さんが御存命中はなかなか映像ソフトが出ず、さりとてリバイバル上映もなかなか望めず、観るのは結構大変でした。
今は安価なDVDが東宝から出ているので、好きなだけ観る事が出来ます。
作品としては、椿三十郎とか隠し砦の三悪人あたりの方が気楽に楽しめるのですが、「七人の侍」の圧倒的なボルテージは、まさに命懸けで撮影に及んだ「黒澤組」の面目躍如たるものです。
泥濘んだ土砂降りの中、密集して殺到する騎馬武者、それを迎え撃つ農民達の竹槍。落馬した野盗は情け容赦無く農民達になぶり殺されます。
寒い二月に、雨をしっかり撮るために墨汁を混ぜた雨を降らせての撮影です。参加者は緊張からか誰も風邪を引かなかったそうですが、もう同じ事は二度と出来ないだろうと言う事は言わずもがなです。
野盗の砦を焼くシーンでは、良く燃えるようガソリンをかけて焼いたら予想外に燃えすぎてバックドラフト現象が発生しています。その為意図以上の迫力が出たものの、俳優二人が大きな火傷を負っています。危ないところでした。
とにかく、各シーンの作り込みが全て命懸けレベルで、いきなり現代の人間がこれを観ると眩暈を覚えます。
かつて、映画は芸と娯楽の王道でした。勢いに乗っていた黒澤明は、まさに世界最高の映画を作る気概を持って黒澤組を仕切っていました。
時には、あの電柱邪魔だな。どけろ。等と言う事も有り、どう手配したのか本当にどけたそうです。
そこまでして撮ったシャシンが大したこと無ければただの困ったオヤジなのですが、今もこうしてしっかりと世界の映画史に大きく残っているわけです。
黒澤明の演出やセンス自体には、自分も映画ファンとして多少の意見は有ります。ただ、これほどのスタッフがまさに命懸けで一つの作品を創ったのは、明らかに黒澤の存在有っての事でしょう。
この映画が無ければ、後の三船敏郎主演の一連の時代劇映画は無かったはずです。まさに、怒濤の進撃を始めたその時の映画と言えます。いや、凄かったです。それと、観ると御飯をいっぱい食べたくなりますね。