「森の伝説」は、手塚治虫先生の遺作の一つであり、アニメの発達史に対するオマージュを交えた力作である。それに第二楽章が有る事を今まで知らなかった。
手塚治虫作品集―実験アニメーション編―と言うブルーレイディスクを買ったら、収録されていたのだ。
2014年完成の、11分49秒の作品。原作、脚本は言わずもがなの手塚治虫先生。絵コンテと監督は、御子息の手塚眞さんなのだ。キャラクターデザインと作画監督は杉野昭夫さん。アニメファンなら誰もが知る往年の大ベテランである。
当初の目的は大好きな「ある街角の物語」を観る事であり、「展覧会の絵」が今観ると随分良く出来てるなとか、「ジャンピング」懐かしいなとか思いながら観ていた。そして「森の伝説」。手塚先生入魂の作品に、観ている自分もついつい力が入る。そして、新作の第二楽章である。
これはあまり悪いけど期待していなかった。手塚眞が天才と騒がれたのは40年も前の事だ。「ねらわれた学園」での芝居は良かったけど、彼が監督した「星くず兄弟の伝説」は全くなっちゃいない映画だったからだ。(今観るとまた違うのかも知れないが、当時はそう思った。)
で、観てみたら、これは物凄い作品だった。自分は絵描きだから、観る事に関しては専門である。これまでに多種多様な作品を相当観てきたから、大抵の事では驚かない。しかし。
極めてオーソドックスかつクラシックなアニメーションである。主人公はある程度擬人化された虫のカップル。11分の作品を6年かけて作り込んだ。凄い。凄すぎる。
もし自分がアニメーターだとしたら、こんな作品を創る事が出来たら死んでも良いと思うのではないかと思った。手塚先生のヴィジョンに対するリスペクトと情熱が凄すぎて、もうどうして良いのか分からない状態である。
しかし、世間ではほぼ無名。熱心な手塚治虫ファンである自分ですら、今まで知らなかった。世の中にはまだ、自分の知らない天才的な努力や優れた作品が有る事を思い知った次第である。脱帽。手塚眞さんは大天才です。間違いなく。